大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)17250号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、金六九万八七七五円及び内金五三万〇八二三円に対する平成四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

理由

一  請求原因1の事実は《証拠略》によつてこれを認めることができる。

二  請求原因2の事実のうち、被告が別紙物件目録一記載の土地及び同目録二記載の建物を所有する区分所有者の一人であることは当事者間に争いがなく、右建物の実際の床面積(壁芯計算によるもの)については、《証拠略》によつてこれを認めることができる。

三  請求原因3の事実のうち、被告がD及びE部分を専用使用していることは当事者間に争いがなく、被告がF部分に歯科診療用の機械類を置いて右土地部分を占有し使用していることは《証拠略》によりこれを認めることができる。

四  請求原因4の事実のうち、改定前の管理規約では当月分の管理費を前月末日までに支払うこととされていたことは当事者間に争いがなく、改定された管理規約における管理費の支払時期の規定が原告主張の内容であることは前記甲第一号証の二によつてこれを認めることができる。

五  請求原因5の事実のうち、原告が昭和六二年七月一二日の定期総会において、本件マンションの各区分所有者が負担すべき管理費の額を一平方メートルあたり月額金二〇四円にすることを決定したことは当事者間に争いがなく、管理費の額が、それまで被告を除き一平方メートルあたり金二七一円であつたこと、被告の管理費の額がそれまで金二万六〇〇〇円であつたことは《証拠略》によつてこれを認めることができる。なお、一平方メートルあたりの管理費の額金二〇四円に被告の専有部分の面積を乗じた金額は金二万五〇八〇円となる。

六  請求原因6の事実は、《証拠略》により認めることができる。そして、一平方メートルあたりの管理費の額金二四五円に被告の専有部分及び専用使用部分(D及びE部分。以下同じ。)の面積を乗じた金額は金三万四一二〇円となる。

七  請求原因7の事実のうち、原告が平成三年六月二三日に定期総会を開催したことは当事者間に争いがなく、その余の点は《証拠略》によりこれを認めることができる。そして、一平方メートルあたりの管理費の額金二九四円に被告の専有部分及び専用使用部分の面積を乗じた金額は金四万〇九四〇円となる。

八  請求原因8の事実は《証拠略》によつて認めることができる。

九  請求原因9の事実は当事者間に争いがない。(但し、後記のとおり、被告は平成四年一月三一日に管理費の増額分として金二〇万一二三二円を支払つた。)

一〇  請求原因10の事実は《証拠略》により認めることができる。

一一  抗弁1について判断する。

1  《証拠略》を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件建物は、鉄骨造りの六階建ての建物であり、一階はエントランス、エレベーターホールのほか、建物の番号を一〇一ないし一〇三とする三戸の区分所有建物があり、二階ないし六階はいずれも各階四戸の居住用の区分所有建物となつている。右一階の三戸の区分所有建物は、分譲時にはいずれも店舗として分譲され、一階の三戸は、昭和五一年四月一九日に被告の兄柳時悟が購入し、昭和五二年に被告が譲渡を受けて所有者となり、現在は被告が歯科医院等に使用している。

本件建物にはエレベーターが一基設置されている。また、水道の給排水管は、一階部分と二階以上の部分とは別系統になつており、メーターも別になつている。

(二)  原告組合では、前記認定のとおり管理規約を定めており、昭和六三年六月の改定前の規約ではその第二条で共用部分の定めがなされており、共用のエレベーター、給排水衛生設備、水道設備及び専有部分内のものを除くその配管が共用部分である旨の規定がある。

また、改定後の規約においてもその第六条及び別表1で、エレベーター設備、給水設備、排水設備、配線・配管等専有部分に属さない建物の付属物を共用部分と定めており、いずれも一部共用部分である旨の規定はない。なお、右規約の改定の手続は法の定める要件を充たす有効なものである。

また、本件建物は、訴外東京商銀不動産株式会社が売主となつて分譲したマンションであるが、前記のとおり被告の兄が一階の三戸を購入した際の売買契約書に添付された管理規約(前記東京商銀不動産株式会社が管理者として作成し、被告の兄が区分所有者として押印したもの。)にも、前記改定前の規約とほぼ同様の規定がある。

2  以上のとおり、エレベーター並びに給排水設備及びその配管は規約で共用部分と定められており、また、本件建物の構造や右設備の性質等に鑑みても一部共用部分と認めることはできない。確かに、一階の区分所有者である被告が本件建物のエレベーターを使用する程度は二階以上の区分所有者のそれに比較して極めて少ないことが推認されはするが、屋上の利用等のため使用する可能性が全くないとは言えず、また、給排水設備及びその配管についても、一階部分及び二階以上の部分とも本件建物と一体となつた設備であり、その維持や補修に際しては本件建物の共用部分にも影響を及ぼすことなどに鑑みると、いずれも一部共用部分ということはできない。

以上のとおり、抗弁1は理由がない。

一二  抗弁2について判断する。

1  本件建物の構造、エレベーターや水道の給排水設備及びその配管の状況は前記一一1(一)で認定のとおりであり、管理費の額及び算定方法の変遷、規約の改定並びに被告の管理費の支払状況は前記認定のとおりである。なお、昭和六二年七月一二日に、原告の定期総会(集会)で、管理費の額を面積に応じた額にすること及びそれに伴い被告が負担すべき管理費の額を変更せず、他の区分所有者が負担すべき額を減額することを定めたことは、共有部分の管理に関する事項であつて、法一八条に基づく集会の決議事項である。

被告は、前記認定の集会の決議及び規約の変更は被告に特別の影響を及ぼすから被告の承諾が必要であると主張するが、被告の承諾が必要とされるのは、規約の設定、変更又は廃止によつて特別の影響を受ける場合(法三一条後段)及び共用部分の変更、管理に関する集会の決議によつて専有部分の使用に特別の影響を受ける場合(法一七条二項、一八条三項)に限定されており、集会決議については被告の承諾は必要とされていないから、結局、被告の承諾が必要であるのは、昭和六三年になされた規約の変更が被告の権利に特別の影響を及ぼす場合であることになる。

2  そこで、被告が負担すべき管理費につき、従前は専有部分及び専用使用部分の面積とは関係なく、二階以上の区分所有者に比べて面積当たりの金額が低額であつたものを、面積あたりの金額を二階以上の区分所有者と同額とした金額に変更することが法第三一条後段に規定する「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するか否かにつき検討する。

本件建物のような区分所有建物においては各区分所有者の利害は必ずしも一致せず、また、利益状況も各区分所有者ごとに異なつているのが通常である。しかしながら、共用部分につき各区分所有者が受ける利益の程度を管理費の額にすべて反映させることは不可能であり、また、相当であるともいえず、共用部分に対する各区分所有者の利害得失をある程度捨象し、一律に各区分所有者の専有部分及び専用使用部分の面積に応じて管理費を負担することは合理的な方法であるということができる(右を超えて、一部共用部分の管理費用を含めたすべての管理費用に充てるための管理費を全区分所有者に面積に応じて負担させることは合理性が否定される場合があるが、本件ではエレベーター設備や給排水設備等が一部共用部分といえないことは前記のとおりである。また、一階部分の給排水設備及びその配管を共用部分から除外し、二階以上の給排水設備及びその配管のみを共用部分と定めたとすれば公平を欠くが、本件においては、前記認定のとおり一階部分の給排水設備及びその配管も共用部分とされている。)。

なお、前記のとおり、本件建物の分譲時に分譲会社が定めた管理費の額は、一階部分のみ面積に応じたものとなつておらず、減額されており、仮に、右減額の根拠がエレベーター使用の程度や水道配管の点にあつたとしても、前掲甲第八号証によれば、その金額の定め方は単に一階の各区分所有建物の部屋番号に対応した二階以上の各区分所有建物の管理費の額と同額に定めたものに過ぎず、減額の程度には合理的な根拠はなかつたことが認められる。

以上の点にも鑑みると、従前、面積に比べて低額であつた管理費を専有部分及び専用使用部分の面積に応じた金額に変更することは、被告には不利益な内容ではあるが、法三一条後段に規定する「特別の影響を及ぼすべきとき」には該当しないというべきである。

よつて、抗弁2も理由がない。

一三  抗弁3については、《証拠略》によれば、D部分は歩道沿いの幅約三五センチメートルの植込みであり、その一部には被告の歯科医院の看板が設置されていること、昭和六三年六月に管理費及び管理規約を改定した際、二階以上の各区分所有建物のベランダ部分(規約では共用部分とされている。)を専有面積に算入するとともにD部分を被告の専有面積に加えたこと、E部分は、現在は被告が独占的に使用しており、他の区分所有者は事実上使用できない状態であることが認められ、これらの事情に前記認定の各事実を併せ考慮すれば、原告がなした管理費に関する各決定、規約の改定は公平に反するものとは認められない。

よつて、抗弁3も理由がない。

一四  抗弁4の事実は当事者間に争いがない。なお、被告は、管理費の一部として支払つた金員につき充当を指定しているが、民法四九一条の規定に反する充当の指定は効力がないから、被告が支払つた金員については民法四九一条の規定によつて充当されることになる。したがつて、別紙請求債権目録の各金額欄記載の金員につき同目録の遅延損害金の始期欄記載の年月日から支払いがなされた平成四年一月三〇日までの各遅延損害金(その金額は別紙計算書のとおり。)にまず充当され、その余の金員を弁済期の早い管理費の請求債権(別紙請求債権目録の番号順によることになる。)に順次充当することになる。その結果、別紙請求債権目録記載の金員中、遅延損害金の全部及び昭和六三年八月分までの管理費並びに昭和六三年九月分の管理費のうち六五四五円に充当されることになる。

抗弁4は右の限度で理由がある。

一五  抗弁5について判断する。

1  弁論の全趣旨によれば、F部分は本件建物敷地の一部であり、本件建物の各区分所有者の共有のかかるものであるから、分譲者である東京商銀不動産株式会社が使用を許諾しても現在の各区分所有者との関係で効力を有するものではない。

2  被告の承諾が必要であるのは、規約の改正により特別の影響を受ける場合又は共有部分の変更、管理に関する集会決議によつて専有部分の使用に特別の影響を受ける場合に限定されていることは前記のとおりであり、F部分に関する原告の集会決議はこれに該当しないから、被告の主張は理由がない。(なお付言するに、F部分は本件建物敷地の一部であり、被告が当然に専有使用し得る権利を有するものではなく、区分所有者の集会の決議又は規約によらなければこれを使用することはできないと解され、前記認定の分譲の際に添付された管理規約及び改定前の管理規約の第六条一項でも、共有の敷地のうち特定の箇所については一部の区分所有者に専用使用させることができる旨規定されているところ、弁論の全趣旨によれば、被告は、F部分を従前、歯科医院用の機器の置き場として事実上無償で使用してきたことは認められるけれども、それが集会の決議や規約によつて認められたものであることを認めるに足りる証拠はなく、仮に、右集会の決議に法三一条後段の適用があるとしても、F部分の面積に応じて管理費に準じた金額の使用料を被告に課する旨の集会の決議は、被告の権利に特別の影響を及ぼすものということはできない。)

よつて、抗弁5はいずれも理由がない。

一六  弁護士費用の請求について判断するに、《証拠略》によれば請求原因10の事実は認められるが、民法四一九条によれば金銭を目的とする債務の不履行による損害の額は法律に別段の定めがある場合を除き、約定又は法定の利率による損害に限り賠償を請求しうるものと解すべきであり、債務者に対し弁護士費用を請求することはできないと解するのが相当である(なお、付言するに、被告が本件について不当に応訴したといえる場合にはそれ自体が不法行為を構成し、不法行為による損害賠償として弁護士費用を請求しうる余地はあるが、本件では不法行為が成立するということはできない。)。

一七  以上のとおり、原告の請求は、別紙請求債権目録記載の金員のうち、昭和六三年九月分の管理費中金八〇〇三円及び昭和六三年一〇月分から平成三年一二月分までの管理費合計金六〇万八二九二円並びに内金五三万〇八二三円(原告が遅延損害金を請求する平成三年八月までの管理費の合計額)に対する平成四年二月一日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金と別紙物件目録四記載の土地の使用料合計金八万二四八〇円の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 金村敏彦)

《当事者》

原告 駒込マンション管理組合

右代表者役員 井上好美 同 斉藤美枝子 同 小松健容

右訴訟代理人弁護士 藤井 篤

被告 柳 時悦

右訴訟代理人弁護士 木場勝男

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例